曲紹介

Angel in the Dark

_ ローラの遺作が聴けるのは、ファンとしてありがたいことである。これはおそらくエグゼクティブ・プロデューサの努力のたまものであると思う。このプロデューサは、ローラと「ルナ・ミスト・レコード」というマイナーレーベルを設立した。3種類のレコーディングを企画していたらしく、1.ローラの作曲による新曲、2.ローラが若い頃よく歌っていたオールディーズ的な曲のカヴァー、3.ライブ録音がその3つのプロジェクトである。このエンジェル・イン・ザ・ダークは、1.と2.を合わせたものになると思う。これを書いては蛇足になるが、「抱擁」よりも鑑賞価値は高い。
_ ローラの曲は、1, 2, 5, 6, 9, 14, 15番である。

1曲目:"Angel In The Dark"

この曲は、すでに亡くなったローラの母と、母方の祖父が念頭に書かれたものらしい。彼らの写真をレコーディングの最初の日にピアノの上に置いた、とライナノーツにある。この曲はその出来もさることながら、遺作集というこのアルバムの性格からすると、身のつまされる思いのする曲である。
「私の祈りに応えて、戻ってきて」とせつせつと呼びかけている。若い頃の作品で同様にアルバム第一曲目のニューヨーク・テンダベリーのユー・ドント・ラヴ・ミー・ホエン・アイ・クライで歌っているのは「二つの流れが消えていく・さよならは言いたくないの」と、これから喪失する悲しみである。それに対して、このエンジェル・インザ・ダークは、もはや失ってしまった、取り返しのつかない、完全なる喪失の悲しみである。
もし何か解決策があるとすれば、こちらからそちらへ行くということも考えられないではない。もちろん、意図的にそうすることは、この世に生を受けているものには許されないことだけれど。何の運命のいたずらか、この曲を録音してからわずか2年後に、ローラはそちら側へ行ってしまった。

2曲目:"Triple Goddess"

1曲目と同様にローラの母と、母方の祖父が念頭に書かれたものらしい。

3曲目:"Will You Still Love Me Tomorrow"

(Gerry Goffin/Carole King)
演奏時間は6分と、原曲で想定しているより、はるかに長い。我々に許された時間は有限であるが、とうとうたる音の流れに、もしかしたら、これがずっと続くのではないか、とはかない期待を抱いてしまいそうだ。この曲については、恐らくあまたのカヴァーがあって、作曲者自身も自分の曲が誰にどうカヴァーされているのか、気に留めることも無いであろう。でも、もしキャロル・キングさんがこの録音を聴いたら、一体どう感じるだろうか。キャロル・キングさんの「つづれおり」で聴ける録音も良いけれど、この曲に関してはこのローラの録音が最高だと思う。恥ずかしながら、聴きながら涙することも多い。

4曲目:"He Was Too Good To Me"

(Richard Rodgers/Lorenz Hart)

5曲目:"Sweet Dream Fade"

静かめで少し暗いこの曲集の中では、珍しくうきうきするような曲である。当方所有のCDは輸入盤であるため、日本語盤を参照にした正確な解釈ができないが、「甘い夢をぶち壊したくないから友達でいましょう」ということなのだろうか。スタジオセッションで最後の録音が、こういう曲であるのも、不思議な感じがするが、それも運命というものかもしれない。遺作集だからとて、感傷的なことばかり感じるのは何だが、「年月はどこへ行っちゃったの?」などという台詞がさりげなく語られると、どきりとしてしまう。

6曲目:"Serious Playground"


7曲目:"Be Aware"

(Burt Bacharach/Hal David)

8曲目:"Let It Be Me"

(G. Becand/Manny Kurtz)
以上の6, 7, 8曲目も素晴らしい感動を与えてくれる。しかし私のつたない文章で感動を言葉にすることもできないので、何も書かない方が良いと思う。

9曲目:"Gardenia Talk"

「春よ、春に違いないわ。」5曲目と同じ日の録音で、また同様にうきうきする、これから何か始まりそうな予感のする、素敵な曲だ。こんな楽しい曲をもっとたくさん書いて欲しかったのに。

10曲目:"Ooh Baby, Baby"

(William Robinson, Jr./Warren Moore)

11曲目:" Embraceable You"

(George Gershwin/Ira Gershwin)

12曲目:" La La Means I Love You"

(Thomas Randolpf Bell/William Hart)
この曲のオリジナルは男性が歌っている。アメリカでクラシックFMのラジオをつけっぱなしにしておくと、オリジナルがときどき聴こえてくる。でもその男性の歌い方は、ちょっと緩んでいる感じ。この曲を、ローラがこんなまっとうに美しく歌ったら、もう誰も勝てない。ラララ。

13曲目:" Walk On By"

(Burt Bacharack/Hal David)

14曲目:"Animal Grace"

15曲目:"Don't Hurt Child"

16曲目:"Coda"

_ローラは1997年の4月8日、風の吹く火曜日の朝5時15分に亡くなりました。

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