曲紹介
Christmas and the Beads of Sweat
__70年作品。最初聞いたときは少し辛い感じがしましたが、今ではとても気に入っています。
ジャケットは点描。世の中妙な邦題が多いですが、この4枚目の邦題は、それなりに合っていると思います。ちなみに私の手許にあるのは輸入盤なので、各曲の邦題がどうなっているのか分からなかったのですが、アマゾンから拾ってみると、曲それぞれにも、真面目に邦題を付けていたことが分かりました。5曲目のUpon the roofが初めて他の人の曲のカバーです。しかし、あとになって思うと、このアルバムあたりが1つの行き詰まり点だったように思います。
1曲目:褐色の大地
"Brown Earth"__今まで聞いたローラの曲の中でも、もっとも気に入ったもののひとつになりました。 上記のとおり歌詞が読みにくいのですが、朝の描写から始まり、意を決した歌唱が聴く人に 勇気を与えてくれるような、そんな曲です。
2曲目:私がフリーポートならあなたはメイン・ドラッグ
“When I was a Freeport and You were the Main Drug”曲調は明るいのですが、歌詞の内容はそれほど明るいものではないようです。かなり比喩的なニュアンスが隠されているかもしれないのですが、訳詞がないので、深いところまでは分かりません。単に音楽として聴くだけなら、明るくて楽しそうな曲です。
3曲目:ブラックパッチ
"Blackpatch" __ここまでは明るい曲。出だしフレーズ2回目で猫なで声になっているところは、男の身としては勘弁してほしい感じがしました。町の情景を歌詞に盛り込むところは、この曲に限らず、このアルバムでの新たな広がりと感じられます。ブラックパッチは猫の斑だと、ミシェル・コートさんの本で読んだような気がしますが、今その本が手許にないので、確認できません。汽車に乗って
4曲目:"Been on a Train"__このアルバムの後半の暗さを暗示するかのような曲。ピアノを弾きながら足拍子を取っているような音が入っています。その昔、ロシアのピアニスト、ブーニンさんがバッハのイタリア協奏曲を弾きながら足拍子を取っていたような記憶があります(歳がばれそうです)。まあバッハを弾きながら歌い出す某ピアニストよりはマシだと思います。すみません、話がズレまくっております。邦題も「汽車」ですか。私の生まれ育った所でも、1972年まで蒸気機関車が走っておりました。このアルバムの発売が1970年ですから、汽車でも全く問題なかったわけです。それにしても、列車の歌といえば、イーライのポヴァティ・トレインがありますが、それに比べて明らかに暗い曲です。でも朗々とした詠唱に引きずり込まれてしまいます。
5曲目:屋根の上で
"Up on the Roof"
__有名なゴフィン・キング作品。4曲目が終わってほっとする、そんな感じでしょうか。ただし、このアレンジは、余計なオーケストラサウンドで音が厚ぼったくなっており、あまり良い仕上がりとはいえません。
キャロル・キングで聴いたのは、そうですね、就職して初めての夏でした。関係ないか...。
6曲目:"Upstairs by a Chinese Lamp"
_すみません、邦題に問題のある表現がありますので英語のみにしました。
_下降する和音が印象的な曲。ところで、厳密にチェックしたのではないですが、ローラの曲はハ長調、キーCのものが多いように思います。白鍵の多いキーが弾きやすいとは限らないし、各人歌える声域は範囲がありますので、キーCに拘ることはあまり良くないと思います。しかし、もしかするとローラの声は、無理矢理キーCで歌うことによって、鍛え上げられたのかもしれないという、肯定的な面もありそうです。で、下降する和音に話を戻しますが、ローラのピアノの弾き方として、3重和音を2度づつ動かして音に厚みを増すテクニックを使うことがあるようです。この曲がそうです。このテクニックはドビュッシーの「沈める寺」で見られます。この奏法は、白鍵の多いキーでないと弾きにくく、「沈める寺」も白鍵の多いキーだったと思います。ちなみにビリー・ジョエルさんもキーCが多いように想像するのですが、どうでしょうか。
_正直言って、B面の最初の曲がこの暗さでは、この先を聴き進めていく気が失せてしまうのが普通ではないでしょうか。私もこのアルバムを聴き始めた頃は、あまりこの曲は好きではありませんでした。しかし何年も経ってから聴き直して思ったのですが、この曲は素晴らしい魅力を持っていると思います。楽譜集に選ばれて載せられるのも、印象的なところがあるからではないでしょうか。それは単にChinese Lampというエキゾチックな印象からだけでなく。この曲が理解できなかったらローラ・ニーロが分かっていない、といったら言い過ぎでしょうか。楽器のアレンジも効果的です。特に終わりの方でベースが出している音は、ハーモニクスがスライドしているような感じですが、どういう奏法なんでしょうか。
_ベースについて。このサイトではベースについてやたら記述が多いです。普通の日本の人にとって、ポピュラー音楽におけるベースは、ギターの活躍を邪魔する余計なものかもしれません。そもそもベースの音が聞こえていないかもしれません。でも、ローラ・ニーロの曲では、ピアノとベースの二重奏的なアレンジが大事です。ローラ・ニーロの曲の中で、私の一番好きなのは、「愛の営み」の「春に吹かれて」でのウィル・リーさんの、心がじーんと温かくなるようなベースです。ほかにも、このアルバム「魂の叫び」の「汗のしずく」のベースが「弦が伸びとってもエエやないか、いてまえ、やてまえ!」とぐいぐい押してくるのも好きです。あと「愛の営み」の「アメリカン・ドリーマー」のゴキゲンなベースも良いです。「マザーズ・スピリチュアル」のベースは、小技が多くて上手いんですが、それでは音程の低いギターみたいなので、ちょっと・・・。しかし、この「チャイニーズ・ランプ」のベースは、超特別です。何でしょうか、これは。
_ちょっと話が飛ぶようですが、マドンナの「クレイジー・フォー・ユー」のベースは、この曲と対照的な意味合いですごいベースだと思います。普通の人は、その音がベースだなんて意識しない。だけど、サウンド上、あまりにも重要な役割を担っている。リズムにしろ何にしろ。オマケにマドンナだから、当然売れ線狙いの、大衆に受け入れられる音作りをしなければならない。絶対変なことはできないし、リズムの乱れも許されない。あまりにも責任重大で失敗の許されない環境で、仕事をきっちりこなすというのは、ベースに限らず、プロとして立派です。
_一方、この「チャイニーズ・ランプ」のベースはどうでしょうか。アルバム名に「クリスマス」が入っているけど、発売はクリスマスには間に合わない。おそらくヒットはしない。だから売れ線狙いはしなくて良い。いや、売れ線狙いではないからヒットしないのか、その辺のニワトリ・タマゴの因果関係は措くとして、ともかく、ベーシストにある程度の演奏の自由度がある。そしたらどうなるか?この「チャイニーズ・ランプ」のベースはローからハイまで、変幻自在。ルートだけ鳴らして抑えるツボも心得ているけど、ここぞという時はベースが大波のうねりを起こす。まるで、クラシックやジャズ系の音楽理論が、紙に印刷されて本になってるんじゃなくて、ベーシストの脳細胞から指先の神経まで具現化されているのではないかと思われるくらい。ご本人に聞いて見たら、意外と「いや、仕事をきっちりこなしているだけですよ。」と言われるかもしれないが。
7曲目:宝への地図
“Map to Treasure”途中の長いピアノの連打が特徴的です。そして下降のグリッサンド。おそらく歌詞にも深い世界があるはずなんですが、私の持っている輸入盤CDの折り込みには昔のLPの裏面の複写が荒い品質で写されており、手書きの歌詞が良く読めません。
8曲目:汗のしずく
"Beads of Sweat"
__また静かな曲か、と思わせておいて、途中からいきなり変わります。個人的には、このアルバムでは1曲目のブラウン・アースと並んでのイチオシ曲です。何といってもこの曲はベースがかっこいいです。これだけロックな曲だから、ベースはウッドベースではなくエレクトリックベースだと思いますが、だとすれば、弦が長いこと張りっぱなし、張り替えしていない弦の音のように聞こえます。バンドで演れたら、最高にカッコいい曲です。
9曲目:わが心のクリスマス
"Christmas in My Soul"
__何と7分もある曲です。そして終わりの方で壮大な盛り上がりに達します。ちょっとやり過ぎな感じもするのですが...。